2019年02月20日
中国・アジア
主任研究員
武重 直人
世界最大を誇る中国の自動車市場に異変が生じている。2018年の新車販売台数が28年ぶりに前年を割り込んだのだ(図表1)。特に年後半から深刻さを増しており、月次ベースでは7~12月が連続して前年割れ。9月以降は二ケタのマイナスに落ち込んだ。これに対し、2018年の中国の小売総額は前年比9%増であり、個人消費全体が失速しているとはいえない。また、中国の自動車の世帯普及率は38%(日本の1973年頃に相当)にとどまり、市場飽和には至っていないとみられる。
(図表1)新車販売台数
(出所)中国自動車工業協会
では、自動車販売の落ち込みの要因は何なのか。中国自動車工業協会によると、①小型車購入税減税の打ち切り②米中貿易摩擦による消費者心理の冷え込み―を理由に挙げている。
実際、2018年初に自動車取得税の税率が7.5%から10%に引き上げられたことが影響したと考えるのは自然だが、それだけでは説明がつかない。2010年末に同じ税率の減税打ち切りがあった後、2011年の販売台数は前年比で2.7%増加、今回も減税打ち切り直後の2018年上半期は前年同期比5.3%増と勢いを保っていたからだ。そう考えれば、下半期に激化した米中貿易摩擦による消費者心理の冷え込みが、新車販売の足を大きく引っ張ったという説明には説得力がある。
もっとも、中国のメディアやシンクタンクが指摘している要因はほかにもある。③株価の下落による逆資産効果④ネット金融の破綻拡大による信用縮小―がそれである。いずれも下半期に時期が重なっており、①②を加えた複合要因との見方が少なくないのだ。
確かに株価下落による個人資産の目減りは、食品のような日々の必需品より、自動車のような高額品の販売に先に響くはずだ。また、中国の庶民はシャドーバンキング(影の銀行)の一つであるネット金融から車の購入資金を調達したり、逆にネット金融を通じて高利で融資したりしていたが、中国政府による規制強化を受けて2018年下期に破綻が急増した(図表2)。
(図表2)ネット金融の破綻金額
(出所)P2Pネット金融業界月報(原題:P2P网贷行业)
今後、中国の自動車販売はどうなるのか。①の減税打ち切り影響への対策として、2019年1月29日に政府は一定条件を満たす自動車の購入に対して補助金を提供する方針を示した。しかし上述の通り、減税打ち切りが本質的問題ではないとしたら、補助金が有効に作用するかは疑問だ。
②の米中対立に関しては、もはや貿易だけの問題ではなくなっている。両国の交渉が妥結したとしても、テクノロジーや安全保障に絡む覇権争いは簡単には解消しない長期的な課題だ。当然、③の株価についても対立激化前の2018年春の水準まで回復する見通しは立たない。④のネット金融についても、政府が一時的に引き締め策を緩めることはあっても、反転させる可能性は低い。
こうした状況から、政府の対策によって販売の回復があるとしても、それは緩やかなものになる可能性が高いとみられる。今回顕著になった自動車販売の落ち込みと同様の事態は、他の高額品においても生じる可能性がある。中国の消費動向には注意を一層払わなくてはならない。
北京市内の渋滞
(写真)筆者
武重 直人